混沌とした不安から脱出するには…

 心の相談と言われていますが、保健所で精神科医が担当する心の精神保健相談では相談が増えていない印象を受けています。

 医療機関の休診や新規受け入れ停止により保健所への相談が増えているとも考えられますが、相談している本人も、いきなり医療にかかる状態ではないと判断しているのでしょうか。

 今回の感染症という外部にある不安がある時は、本人の問題が一時棚上げされて目の前のことに集中するので、精神的に一時的に持ち直す方もいます。悪化する場合は、仕事がなくなることでの金銭面の不安、家族が一斉に在宅することで精神疾患がある人のリズムが崩れる・家族内の緊張が高まることが考えられます。デイケア・デイサービスに行けないことで支援者の精神的な健康度が悪化することが本人に影響することなど、話を聞いていくとストーリーが見えてくるケースが多い気がします。

 ここから、どのようなことをして6月以降の社会が戻る段階に合わせていけばよいでしょうか。(個人的には感染者が急増する気がしてなりません…)

原因のある不安、ない不安

 治療論から考えると、不安に対しては以下のような対処を取っています。

  • 原因がある:原因に対する対処。
    • 金銭面での問題:税理士に入ってもらう、支援金の申請
    • 家族内の緊張:できることなら離れる時間を作る。散歩や勉強、遊びなど干渉されない時間を確保する(外出時は感染に注意)
    • お世話になった方の死に目に会えない:亡くなることについて関係者で語らう。ZOOMなどでオンラインで顔を見せる。
  • 原因がない:薬物療法について検討。(ただ本人が話さない…主治医に対する信頼が不十分、抑圧していることもあり、原因が本当にないのかはしばらく外来で見守る必要がある。)

 上記を考えると、原因がないものよりも原因があると自身で考えているものが多いと思われます。

今の不安への対処法は何か?

 上記原因のある不安が多いと考えられることや、新型コロナウイルスによる「非日常」が続いていることからすると、以下のようなことが対処になりそうです。

  • 「おくすり」を心がける。
  • できる対処は行う。すぐに相談する。
  • 不安を煽る対象から離れる。テレビや新聞、厳しい口調の友人・家族など

 このご時世で平穏な心を取り戻すのは非常に難しいことです。無念無想は難しいかもしれませんが、煩悩から解き放たれるには不安を取り除くことが欠かせません。金銭面の支援体制は増えてきており、今できることを専門家の協力を得て取り組んでみましょう。精神科も問題を整理するうえで使うのも一手です。

(参考)心の相談、4月に急増 新型コロナ影響、4900件超 厚労省
https://news.yahoo.co.jp/articles/1ddbd4771d98fca091b59d257063713dd806e7f9 (2020.5.29 確認)

Q 職場復帰時の在宅併用について

 第2波が来る可能性が高いものの、経済活動の停滞もあり社会活動も戻ってくることになります。

 通常時は在宅勤務ができないものの、今回在宅勤務を行った職場では、今後在宅勤務の積極的な利用が議論されるかもしれません。

 職場によっては出勤が前提というところが今のところ多いと思いますが、抑うつ・適応障害後のこの時期の出勤をどうするか悩ましいところです。これまでの対応から検討します。

業務が在宅可能なものかどうか

 大前提として、在宅ができるかどうか、元々在宅を考慮した仕事でなければ出勤するのが前提になります。ソーシャルディスタンスを取るために人を減らす場合、他の方の勤務と同様の扱いで勤務日削減や勤務内容の変更を行えばよいと思われます。

特別扱いや差別はいけない

 病気があるからこの方だけ時短できても上司が何とかする、という特別扱いは、本人の退行を促進します。就業規則に復帰の際の項目がなければ、このような扱いを他の社員に指摘されると反論のしようもないと思います。

 また、ちゃんと来れるのか上司や職場が心配なので、彼だけ在宅不可にして勤務するのも就業規則にない場合はトラブルになります。それを行う根拠がなければ、他の社員と同様の扱いにするのが本人、周囲にとって不満が一番少なくなります。

在宅の場合の評価

 勤務の場合は出勤・遅刻日数が評価に入りますが、在宅の場合は成果での評価になります。ある程度その部署での勤務に慣れていないと成果を出せないので評価のしようがなくなるため、自宅待機の延長も選択肢に入るかもしれません。

病態別の在宅勤務からの復帰対策

 自分で動くことが要求されるため、病態によっては明後日の方向に向かうかもしれません。病態別の行動予測を記します。

  • アルコール使用障害 口ほどに動けなかったり、逆に細かいことに目が行き過ぎて成果が中途半端になる恐れがあります。行動・業務計画を出してもらい、その日毎に成果を報告してもらう。内容も同時に確認する(報告以上に内容が進んでいないことがよくあるため)
  • 統合失調症 自ら業務を広げて落ち込む、もしくは型が決まってないと落ち着かないことがあり、行動を広げるタイプでは業務途中に電話で様子を確認する。型が決まった方がよいタイプは業務の指示を明確に行う。
  • 双極性障害、うつ病 定時の報告と成果物を確認。本人に任せて問題ないものの、行動が広がり躁転することがある。メールの文字数や電話の回数・時間でおおよその体調が分かる。
  • 身体表現性障害 他者に見られることで緊張する場合もあり、在宅勤務で成果を出せることに自信をつけてから戻ることもある得る。退行促進することもあるため、在宅の期限・限界は開始時に決める。

 特殊状況下のため、数例を検証したうえで方針の再考を要することが多いです。期間を決めるなど、これが当たり前で留まることなく「今後どう働くか」を長い目で見て職場全体で検討いただければよいと考えます。

オフィスの消毒

 5月に入り日本産業衛生学会および日本渡航医学会がガイドラインを出しています。営業再開および第2波の対策として、感染対策のうち消毒についてガイドラインとアメリカCDCのホームページを参考に整理してみます。

消毒方法

  • 消毒の前に中性洗剤で汚れを落とす。
  • 消毒液:アルコール消毒液(70%~80%)か次亜塩素酸ナトリウム(0.05%)を使う。
  • トイレの消毒:次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)を使用
  • 方法:清拭する。噴霧タイプは必要としない。
  • 個人用保護具の適切な使用

消毒の必要な場所

  • 屋外:通常の清掃で消毒は不要
  • 7日以上使用されていない施設:通常の清掃で再開可能(ウイルスの生存期間がこれ以上職場環境で生存できないため )
    ※換気システムの特別な清掃は不要、定期清掃は通常通り行う。

消毒する必要があるもの

  • テーブル
  • ドアノブ、光スイッチ、エレベーターのボタン
  • カウンタートップ
  • ハンドル
  • デスク
  • 電話
  • キーボード
  • トイレ
  • 蛇口とシンク
  • ガスポンプハンドル
  • タッチスクリーン
  • ATM

トイレの消毒

  • 不特定多数が使用する場所は清拭消毒
  • 蓋を閉めて便器を流す。
  • ハンドドライヤーは利用を中止、共通タオルは禁止。ペーパータオルを設置するか、手拭きの持参

感染者が発生した場合の消毒

  • 保健所の指示あり:保健所の指示に従う
  • 保健所の指示なし
    • 感染者の最後の使用から3日間以内の場所を消毒する。
    • 清掃作業前に十分な換気をおこなう。作業前に下記の時間換気することが推奨される。
      • ヨーロッパCDC 最低1時間
      • 米国CDC おおよそ24時間
    • 水やせっけんで洗浄してから消毒をする。
    • 消毒範囲:感染者(疑い例含む)の使用しているデスク・椅子など、少なくとも半径 2m程度の範囲を消毒、トイレ・喫煙室などを使用していた場合、該当箇所を消毒
      ※フリーアドレス席は接触者の追跡が困難になるため禁止。

精神疾患と勉強方法

 どの疾患圏においても、どう勉強させるかというのが若い方の支援の一つになります。途中で自信を無くしたり、細かいところに目が行き、本筋を見失う、手広くやりすぎて再燃する…等様々なアクシデントがつきものです。

 特性を生かした支援ができるとよいですが、本人の目的によっては効率のよい勉強法を教えることも支援の一つになります。

基本的な生活習慣の維持

 夜更かしして不眠になり症状が再燃することはよく見られるパターンです。調子を崩しては元も子もないので、生活習慣を崩さずリズムの取れた生活を続けることです。生活指導としては以下のようになります。

  • 酒は飲まない:細かいところに目が行く、集中力・意欲の低下
  • 良く寝る:睡眠時間と十分な回復
  • 食事はしっかりとる

統合失調症の学習支援

 「生活臨床の就労支援」という論文に、統合失調症の方の学習パターンとその支援についての記載があり、下記の表のようになります。下記文献を参考に、表を作成しました。

学習パターン支援法
重要度の判断が苦手学習範囲を限定
複数の概念を統合することが苦手複数の概念を要する内容はパターン化して練習する
抽象概念の理解が苦手(ことわざ、比喩など)繰り返しても向上しないため、後回しにする
全体像の把握が苦手(長文読解や大意把握等)繰り返しても向上しないため、後回しにする
応用問題が苦手代表的なものをパターン化して練習
完全に理解しようとする公式や文法などは簡素化して教える
試験前の空き時間に不安定になる試験前に勉強指導を増やす
過剰に勉強する(多数の教材に手を付け、こなせない)勉強指導の時間を明確にする。時間と内容は徐々に拡大する。
極端な反応をする(小さな失敗で落ち込み、小さな成功で自信過剰になる)タイムリーな言葉がけ(やめようとしていたら励ます、自信過剰であればたしなめる)

 上記学習法をみていると、勉強の始めのころのやり方に近いと思われます。

学習支援を踏まえた学習法の考え方

 アルコールや摂食障害では細かく追及しすぎてしまい、分野別の得点率が大きく差が出てきます。双極性障害では調子よいとき悪いときの勉強量も変わるため、やはり分散が大きくなります。発達障害では型にはまる、勉強の仕方の工夫で伸びることがありますが、本人の意向が見えてきたところで「まずは学校を卒業する」「入学する」ことに目標が設定されます。最低点や合格ラインを意識すると、得点しやすい分野は本人に任せて、苦手な分野は最低限のラインを平均してとれる工夫をしていきます。教科別の最低限のラインを考えると、次のような感じでしょうか。

  • 国語 漢字と文法をまず取り組む。高校生・大学受験では漢文・古文の特典が安定してとれるもの、短く読めるものから取り組む。
  • 算数 公式と基礎問題までをやる。九九をひたすらやり単純計算を早くする。図形やグラフは基本パターンのみ覚える。
  • 社会 近代史が得点率が高いため、教科書は後ろからやる。
  • 理科 典型的な形をひたすら覚える(星座や種の輪切りなど)
  • 英語 単語をひたすらやる。リスニングは短文で回答できるものをやる。

 何を選び何を捨てるか。能動型では枠を広げず、受動型は枠を決める。気分障害やアルコールはどちらかというと能動型の支援に近いかもしれません。道が見えなくても諦めたくない若い方々に幸あれ。

(参考)生活臨床の就学支援 武田隆綱 生活臨床の基本 p71-80

アフターコロナのメンタルケア

 緊急事態宣言解除が続き、東京も普段の人波に戻りつつあります。在宅勤務の人も、徐々に出勤が増えていくものと予想されます。

 一方で、コロナ後のうつ状態というものも出現します。原因はコロナウイルスに罹患するのではという不安もあるでしょうが、在宅で体力が落ちたところに出勤で体力低下を自覚すること、ボーナス減が予想されるための金銭不安、飲酒量が増えて起床時間が遅くなったことでのリズム崩れなど、考えられるだけでも多くの原因が考えられます。

 原因が考えられるものには、薬物療法よりも考えられる対策に取り組んでいくのがまずは大事です。

  • 感染が心配:率直に職場と相談し、感染を引き起こさないための案を一緒に考える。組合員であれば時差出勤や在宅勤務の平常時での適応拡大などを提案する。しばらくは最小限の用事を済ます時間だけ出社する。
  • 体力が落ちた:運動と食事の見直し。1日7000歩は最低限行う。
  • 金銭の不安:補助金、家計の出費の見直し。ボーナス払いを止める。サイドビジネスで収入拡大を狙う。メルカリで必要ないものを売る。
  • 飲酒:断酒。買い置きしない。「寝れないから飲む」場合はとにかく活動量を増やす。
  • リズム崩れ:夜11時には寝る。

 ここからは経済を戻していかねばならず、医学的には心配が少しあっても店を開くことが優先されると思います。クラスターの発生が想定されるため、ロックダウン実施と解除を繰り返すこともあり得ます。

 完全在宅からの復帰は抵抗があるかもしれません。これを機に働き方を変える方もいらっしゃると思います。まずは原因と対策、思い当たることが多いです。医療として考えるより、まず行動を起こしてみましょう。

若い女性の逝去に思う

 若い芸能人の方が亡くなったとのことで、ネットニュースでは話題になっています。

 若い方が亡くなるのは精神科を業とするものにとって非常に心苦しいことです。この方はテレビにも出ていたようで、そこがきっかけでSNSでの誹謗中傷が起こっていたようです。

 子供のころは母親が忙しく、行事や参観日に来てくれなかったことで、母親の事が嫌いだったようです。しかし就業の場面では母親と同じ業界に立ちます。当初は母親が一緒にいたのでそのままついて行ったようですが、母親が引退し、ここから一人で自分の地図を描いていくことになります。

 メディアに出ていたようで、本業のにも活動を幅広く行っていたようです。SNSでの批判はおそらく番組の内容の方でしょう。本業ではヒールの方も多くいらっしゃるので。

 メディアは見ないため過去のネット記事を参照にしますが、他の職業の方と同居して生活するようで、本業とは別世界に入っていきます。
 ここからは推測になりますが、周囲の関心を集めるためにわざといけないことや周囲の望まないことをやります。相手にされない、孤立するよりは悪い子を演じる。それが本業でもヒール役を演じるに至った。外見は美人なので本人の意向か事務所の意向なのかが不明です。


 このまま進めば適応できるか途中でやめていたで終わったかもしれません。テラスハウスは本人からか事務所などで仕事を取ったのか。目立ちたいだけならただいい子を演じれば良いが、ここでもやはりヒールの役回りでした。台本上なのか自分でそう行動しているのか。


 メディアはプロレスと異なり、より多くの人の目に触れるため、SNSで炎上したときは非難一辺倒に集中します。でも視聴率を取れるキャラは残したい。映像では炎上しそうなものを放送し、さらなる批判が集まります。プロレスであればヒールでもファンは多い。この違いにご本人は苦しんだのかもしれません。

 ここまでをまとめると、自分の人生が本当に自分のものだったのか、周囲の指示で自分の進みたい方向に進めなかったような気がします。身体は鍛え上げられ強そうに見えても、内面の苦悩を隠すために筋肉をまとい、苦悩と向き合うのを回避していたのかもしれません。試合の記録など何冊もノートにまとめるなど本業に対して勉強熱心な方なので、メディア出演で時間や対応に足を引っ張られることに苦痛を感じていたかもしれません。

 では今回の件から何を学んだか。上司の業務配慮等も含め考えてみます。

  • 素直に話を聞く人でも、「本当にどうしたいのか」を上司は確認する。何も言わないからと次々と業務を入れると本人の行き詰まりが起きた際に危険が生じる。
  • 2足のわらじが合わない人も多く、今回のような長期の兼業は避け、副業は単発業務までにする。過密スケジュールは厳禁。
  • メディアも面白い絵ばかりに探求せず、本人の調子を確認する。SNSで味方がいないのは危ない状態であり、休養やメンバー交代を考慮する。

 ご冥福をお祈りいたします。

薬物使用の乗り換え

 ニュースはもっぱらネットニュースを見ていますが、薬物所持による逮捕や薬物使用疑惑に対する芸能人の反論などが薬物に対する報道が増えてきている気がします。

 仕事がなくなることへの不安はありますが、テンションを上げる機会は以前より減り、アッパー系の薬を使うことは少なくなっていると思われます。外出自粛により売人が街にいるとかえって目立ち職務質問の対象になってしまうので、入手経路もまた底深くに潜っている気がします。

 数年前に危険ドラッグが流行しましたが、現在は店で販売する画を報道で見る機会がなくなりました。入手は難しくなっていると思われ、危険ドラッグを使用していた人々はどこに流れているのか?薬理作用を踏まえて考えてみます。

物質使用障害の分類

 物質使用障害は合法、違法含めると下記のような作用で分類されます。

  • 中枢刺激薬(アッパー);うつうつとした気分からの解放や疲労感の回復等に使われるようで、覚せい剤を使用した後に「ハイになる」のは抑うつ状態からの回復を簡易に表現したものと考えられます。コカインやアンフェタミンの他、リタリンなどが該当します。
  • 中枢抑制薬(ダウナー);アルコールやベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬・睡眠薬)、バルビツレート系睡眠薬など、気持ちを落ち着かせる、緊張を取るために使うことが多いようです。
  • オピエート;麻薬の他に麻薬性鎮痛薬なども含まれます。オキシコドン、オキシコンチン、メサドン、モルヒネ、ヘロインなどが該当します。がん性疼痛に使われますが、不適切な使い方では激しい感情や焦燥感を抑えるために使用する人に魅力的なようです。
  • その他;ニコチン、マリファナなど 作用経路は上記各々の作用があるようです。医療としての介入があまり多くない群で、抑うつや自殺企図との関連があります。

危険ドラッグ群の引っ越し先

 危険ドラッグを使用した理由が上記のどれに該当するかで移る先の薬物は決まりそうです。興奮を求める場合は覚せい剤やコカイン。感情の鎮静を求めるのであればアルコール、その他の群のタバコや大麻に向かう群もおり、それぞれに引っ越ししたものと思われます。

 法規制で違法と指定されると、その物質をやめるきっかけにはなります。ただ気分や感情のコントロールをすぐに学習するのは難しく、物質使用の穴埋めは他の物質使用で埋められることはよく見かけます。

 一度物質使用が決まると、遊びで使う人がいるかもしれませんが、求める効果が適正なものでなければ他の薬物には移動しないようです。最近は大麻の報道が多く、危険ドラッグからの移動した群なのか、入手が容易になっているのか、他の報道のネタが少なくなっているのか。いろいろ考えさせられます。

 

医療関係者に必要な労務の知識

 産業保健の現場だと、労務管理が改善すれば本人にとっても会社にとってもいいのに…と感じることがあります。

 労務は難しい。とにかく法律が多く、どこから取り組むか悩み、取り組んだことが会社の売り上げ向上につながるのか?と疑問だらけですが、ここを取り組んでもらった方が職場の健康度が上がる場合も多いです。

 メンタルヘルスは産業医や保健師がいないと始められないか。-そうでもないです。言うことをきちんと言う、適切な時に適切な指導を入れる、

 就業規則に記載されるルールが明確だと、会社としての判断基準が誰から見ても分かります。面談の時に「そんなのどこに根拠があるんだ」というような上げ足を取られ、話が本論から逸脱してしまうことも少なくなります。

労務管理を行うメリット

  • 法令順守による社会的信用の向上
  • ルールが明確なことで、条件が合致した優秀な人材を獲得できる
  • 金銭面で有利(助成金、融資など)

 問題がある際に明確に指導、裁定をきちんと行い、パワハラ色満載の上司から守られるだけでも優秀な人材が残ります。中心になる人間が抜けると士気が下がります。「あほらし、やってらんねえ」という言葉が出たらいよいよその人は辞めることになります。こうならないために、できる手を打つことで本人のメンタルヘルス向上につながります。

就業規則とは

 就業規則とは何か。会社の中で守る必要のある事項が記載されたもので、就業のルールブックです。これに反する発言や対応でトラブルになった場合、裁判で負けてしまいます。

 休職後に復帰する際、民間や公的リワークを行ってから復帰を促す場合、就業規則にリワークの有無の言及がなければ、必ずしもやる必要はないです。本人の不調の原因まで掘り下げた方が復帰後安定するという診立てがあったとしても、本人が「やらない」といえばそのまま復帰しても問題はないことになります。現場に任せて上司は就業規則を変えようとせず知らん顔だと、現場は責任を全部負うことになる。そんな現場は危なくてしょうがないです。ゴールポストを職場、本人、産業保健スタッフと共有できることで、一緒の目標を目指せるということにつながります。不公平感も軽減します。

 ちなみに産業医の業務は、”安全衛生関係:安全及び衛生に関する事項”として記載されています。

 最近は残業規制と在宅勤務により、日が変わるまで職場にいることはなくなり、早く帰ることが主流になっていますが、勤務時間の管理のために外国で使われていたタイムカードを最初に日本に紹介したのが新渡戸稲造です。

 一度就業前に目を通し、その会社での対応を決めるのがよさそうです。

いきなり厳しくしても

 しかし就業規則はあっても、いい加減な人から四角四面な正反対の性格の方に労務担当者が変わったらどうなるでしょうか。
 「就業規則に書いてあるんじゃー!」といきなり対応が厳しくなると、職場の不満が出るかもしれませんし、職場を去る人も出るでしょう。このようなハードランディングで血の入れ替えを行う場合と、少しずつルールに合わせていくソフトランディングのやり方、どちらが良いかは会社の目指す方向と社員の目指している方向によります。トップが覚悟を決めて改革に乗り出していくしかなさそうです。

Q 酒とたばこ、いっぺんに止めたほうがよい?

 酒とたばこ、精神科臨床ではこの2つと切り離して語ることは難しいです。酒は依存症としての治療対象であり、不眠の時の初めの使用物質、不安への不適切な対処法の一つとして挙げられます。たばこはうつうつとした気分を持ち上げる、集中するために使用する人もいれば、落ち着いた後の一服を行う人もおり、精神科病院での禁煙対策はなかなか進まない一因でもあります。この2つの物質について、比較をしながらやり方を検討してみます。

酒・タバコいっぺんに止めるのは難しい

 当然、両方やめるのが理想ですが、これまで依存物質を使いながら人生の苦痛を乗り越えてきた方にとって、代替案もなく「やめろ」だけでは苦痛を直に向き合うことになるので、感情の嵐が起きかねません。試してやめられるのであればそれでよいのですが、両方やめるのは難しいことが多く、できないことを想定して次の策を練るのが現実的です。

精神科の観点:酒からやめる

 ではどちらから止めるか、というと精神科の観点では酒からやめることに取り組んでもらいます。
 なぜか。

酒は急性中毒を起こすが、タバコは急性中毒を起こさない。

 多量飲酒ですぐに危機的な状況を迎えることがあり、急を要するものから対処します。たばこも量が多ければ急性中毒を起こす可能性はありますが、浦安鉄筋家族の大鉄のようにいっぺんに多くの本数を吸うのは現実的には難しいです。

 他にはアルコールによる衝動性や攻撃性により家族が暴力を振るわれる、他の問題を生じる等、行動が変化していることもあり、酒に取り組まないと次の段階に進まないです。

社会的な要因や、本人の止めやすさを考慮

 上記のような介入を急ぐ場合でなければ、本人の止めやすさの意見を聞き、施設入居の条件に断酒や禁煙が含まれている、入職条件に記載されているなど、条件により止める計画を立てるのがよさそうです。あくまで本人の意見を踏まえた上でないと、介入が難しいことが多いです。

支援者の価値観を前提にしない

 依存症への対応について、支援者は「こうあるべきだ」という意見になることが多く、本人と対立することが少なくありません。頭ごなしに持論を展開しても聞いてくれず、「こいつはわかってくれない」と思われて終了になることも少なくありません。


 短期決戦ではうまくいかないため、本人がどうしたいのか、やめられなくても継続的に本人の様子をうかがってみるなど、「最終的に」止めるにはどうすればよいかを一緒に考えれればよいかと思います。

Q 「振り返り」をするべきか

 職場復帰で振り返りをしろと言われることがあるでしょうか。「調子を崩した時のことなんて思い出したくない」…休んだ人の気持ちもわかる気がします。辛かった時のことを振り返ることでまた心苦しくなる、とおっしゃる方もいますが、再発予防に取り組んでいるかの判断材料として必要と考えます。

悪化時の事を冷静に見ている=問題の収束

 逆に悪化時の事を冷静に見つめなおしている場合は、「○○だったから次はこうする」という再発予防策まで自分なりに考えてきています。特に身体症状に出やすいタイプは、ストレスがかかると言葉にする前に身体症状として再燃してきます。”身体表現性障害”という診断書を最近は見かけることが多いですが、悪化時の事を考えてみるまで至らないことも少なくありません。

振り返りが不要なことはあるか?

 「振り返りで悪化するからやりたくない」という人は、職場での負荷には耐えられない状態と思われます。また、安全配慮の面からしても、配慮を検討しようがないので再発防止策を立てられないため復帰見送りになることも少なくありません。
 言葉にするのが難しい場合は、リワークでスタッフからみたアドバイスや意見を聞きながら振り返りをするとスムーズに行くことが少なくありません。
 核心を突かれて一時的に落ち込んだり調子を崩すこともあるかもしれません。そこからの立ち直りも周囲の方は見ています。産業医面談で振り返りを行い自分なりに納得している、腑に落ちているか、そういうところを見られていると思ってください。

A 振り返りは産業医面談で避けられないと考えた方がよいでしょう。