ムンクの生涯と疾病

 専門学校での授業で統合失調症を説明するときに、エドヴァルド・ムンクの「叫び」を題材に取り上げたことがある。

 「叫び」が3部作の1つであったのは、上野でやっていたムンク展でみた気がする。この幻聴による苦悩や絶望の表情は、統合失調症の幻聴なのか、生への不安による抑うつなのか検討してみる。

 母親を早くに亡くし、母親代わりの姉も早くに亡くなっているため、受容的な愛情は十分に育まれていない状況であったとすれば、自分はどうなってしまうのかといった生への不安は常に付きまとっていたと思われる。

 妹は精神病を患っており、同じ生きづらい環境で育ってきたムンクも統合失調症を患っていたと思われる。本人の作品にメランコリーというものがあり、精神病性うつ病や躁うつ病の可能性もあるが、苦悩を表現するのにうつ状態では絵を描くのは難しいであろう。

 晩年にはアルコールで他者とトラブルを起こすなど、アルコール使用の問題や、妹の精神疾患による入院時にカジノで奨学金を使い込むなど、依存による苦痛緩和もしていたようだ。アルコール自体を幻聴の緩和に使用する患者さんも外来でよく出会うので、統合失調症とアルコール使用障害の併存という診断になりそうだ。

 統合失調症まで出たので、生活臨床で考えるとどうか。本人の悪化のパターンが妹の状態悪化や交際相手との破綻がきっかけであり、”色”がテーマだったのだろう。家族の死去や入院による生命の危機で”健康”も考えられるが、晩年に視力を失った際にも執筆をしていたようで、健康による状態悪化はなさそうである。

 ネットの情報や昔の講義資料から推測してみたが、現代に生きていれば母や姉は生きていただろうか。それならここまでの苦悩にはならず、叫びのような作品は世に生まれなかったかもしれない。

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