女子高校生が亡くなった事件で、未成年者誘拐の疑いで男女が逮捕されました。このニュースを最初から追うと、高校生は孤独だったのでは、ということをまずは感じました。注射痕や抵抗した跡がないとすると自身で過量服薬を行ったという男女の陳述は間違ってないと思われます。
状況の整理
このニュースから我々が何ができるのか、一つずつ考えてみます。
- 3人はSNSで知り合った
- オーバードーズ仲間
- 抗不安薬・睡眠薬を100錠以上所持していた
SNSで知り合うこと
SNSで知り合いを作るのは悪いこととは限りませんが、リアルに比べて文字のやりとりが中心なのでリアルに会う時とギャップがあることを前提で付き合うことになります。実際に会ってから結婚に至るケースも多いので、使い方次第なのだと思います。
コロナも影響し、人とのつながり、特に同じ苦痛を共有できる仲間を作るのはリアルでは非常に難しいです。「言ったら友人が離れていくのではないか」「友人と話しても私のことは理解できないよね」と感じると、リアルで話しにくいものです。孤独ならなおさら。
SNSでつながっていない場合は一人でオーバードーズをしていたかもしれません。同じ状況を理解できる仲間ではありますが、セルフヘルプの方法が間違っていたので今回の結果になってしまいました。知り合った仲間が支援者だったらまた変わっていたかもしれませんが、薬のことを考えると支援者と距離を置いていたかもしれません。
オーバードーズ仲間
過去に受けた相談の中で、オーバードーズ仲間がいる相談を受けたことがあります。目の前で服薬するとその場でどうしてよいかわからず自分も過量服薬する。その場で動揺すると冷静に考えれば「おかしい」ことがおかしいと判断できなくなることがあります。
ほかに仲間がいないの?という発言をする人がいますが、オーバードーズする人は苦痛を抱えています。苦しいから死のうと思う。相談しても馬鹿にされるんじゃないか、裏切られるんじゃないかといったことを考えてしまったり。同じ行動を起こそうとする人だけが共有できる仲間になってしまいます。そう考えると逮捕された2人も孤独なのでは、今後の対応で支援が必要になりそうです。
抗不安薬・睡眠薬の大量保有
オーバードーズするときは薬をためた上で実行に移しています。我々医療者も特にこれらベンゾジアゼピン系の処方は近年慎重になっていますが、ため込んでいた理由も考えたほうがよさそうです。
中には「処方だけ出して。後は一人でやるから」と一人で薬にふけようとする方もいますが、その方には処方をお断りしています。情で処方して問題行動に移してしまうことになると、だれも幸せになりません。処方だけ出して話を聞かない、だと医療者への信頼も薄れ、「薬だけでいい」という孤独は解消されないままになってしまいます。薬の数を考えると医療にはつながっているかもしれないが、人のつながりは浅いものだけだったのかと考えさせられます。処方を出す医者自身も患者を幸せにできない絶望感から処方を出すだけになったのかもしれません。負の連鎖の結果と読み取ることもできます。
事件から次に生かせることは
若い方の研修や健康教育を行うと、「きれいごとを言いやがって」という人が必ず数名はいます。その子たちへアプローチしてもこちらには援助を求めてきません。しかしこの援助を求めない人たちの拾い上げ支援が自殺対策で最も必要な気がします。医療者が信頼されることと医療者の自信を取り戻すこと、逮捕された方の信頼を得ながら健康的なつながりを作るのが今後求められることになります。
個人情報かもしれませんが、支援者をSNSパトロールにスパイさせる、自殺企図後の対応に診療報酬を上げる、ベンゾジアゼピン系の処方がない場合の報酬を上げる、システムでリスクの高い集団の拾い上げやBotによる返しなどで支援者を疲弊させないなどといったことが自分の中でふと考えてみた対策です。
「死ななければ周囲は支援できる。」若者の自殺は減っていないので、今回の事件を機に踏み込んだ対策ができればと考えております。
2021.12.17 追記
文春から上記のような記事が出てきました。
自分で調べたわけではないものの、孤独をオーバードーズの背景に感じました。オーバードーズに傾かないために周囲がどう手を差し伸べて、本人たちの信頼を得ることができるのでしょうか。逮捕でさらに自尊心が低下する中で手を差し伸べることができるのか。本人たちの味方が少しでもできると救われるのでしょうが…
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