社会性低下防止の手段

 「会社をリハビリの場に使うな」

 これは精神科外来を受け持ったときに患者さん自身によく伝えていた言葉である。産業保健スタッフになってもその考えは変わっていない。

 復帰の際は原則定時勤務をできることを前提に復帰準備を行う。職場の状況を伝え聞くことができても見る機会が職場巡視などに限られるため、ある程度仕事を振ることができるレベルでないと、職場から不満が出ることも考えられるためである。

 ただ、休むことで急激に老化する中年以降のうつ状態の方もいる。一人暮らしで自宅にひきこもる方も少なくない。職場から連絡しても調子が良くないとのことで定期的に面談の形をとり手立てを考えてくれ、と職場からの依頼がある。

 できることは少なく、治療で調子が戻るのを待つケースが殆どであるが、面談しているうちに急にさっぱりとして外見が社会人なりに戻った方がいた。薬物療法も変わっていないのに何故だろう…?

 話を聞くと「これから上司と喫茶店で話をするんです」との言葉が出てきた。直接仕事をされる人と会うのは社会性を戻すいい機会になるようだ。それまでに休養や薬物調整で調子が一定程度戻ることが必須になるが。

 産業保健スタッフや外部医療機関はあくまで外野のことが多く、社会性の評価をするには職場や上司の協力を要することもある。「なんで俺が行かなきゃいけないんだよ」という上司も中にはいる。それでも、<課長の力が必要なんです。最後の後押しがその肩にかかっているんです>としぶしぶでも協力してもらえるようにお願いしている。

 変化を起こす相手は上司やお世話になっている人、同僚・同期など、世話焼きであれば後輩も変化のきっかけになることがある。中にはリワークに行くことで「周りによく見られたい」から変化を起こすケースもある。

 誰の動きで調子が上がったのか。それがわかると悪化時の対策まで考えることができる。普段の身なりや髪型、雰囲気などの客観的な評価を記録に残しておくと、変化時の評価がやりやすくなる。

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