精神科をやっていると、統合失調症で通院している方から「仕事ができるか」という話が必ず出てきます。統合失調症の発症が10-20代が多いため、症状が落ち着いたら仕事をしてみたい、という気持ちにはできるだけ汲みたいところです。
仕事ができるという能力の問題と、実際に仕事を探して就ける就労の問題があります。これらの問題を一つずつ分けて考えてみます。
能力の問題
統合失調症の予後では1/3の法則という話があります。1/3が完全社会復帰で仕事に就労できる、1/3が日常生活適応レベルで、1/3が入退院を繰り返すといわれています。仕事就きたてのころの20年前の話だったので、現在は精神病棟が減り抗精神病薬の陰性症状への効果が良くなっているこを考えればもう少し予後は良いのかもしれません。
初発の状態が悪くてもそのあと立て直しができ症状が落ち着いていれば就労もできそうです。日常生活適応と言っても、収入基盤があり働かなくてもいい人も日常生活レベルに含まれている場合があります。仕事できなくはない人は案外多そうです。
就労の問題
一方で、実際に仕事場にいるかというと、ほとんどお見かけしません。統合失調症は人口の1%と言われていますが、会社内トラブルでも疾病が原因と言えそうな人は年に1-2回程度です。
社内で見かけないのは、発症年齢も影響しています。
統合失調症は10-20代発症が多く、就職活動や仕事始めで調子を崩します。入社試験の途中で脱落したり、新入社員で調子を崩すと研修担当は五月病かと思って積極的に介入しないことが多いです。入社後であれば、すぐにやめなければ復帰プランを検討できるものの、発症と同時に本人や両親が会社を辞めさせてしまうケースもあります。
最近は障碍者雇用枠が拡大しているのでは、という話もありますが、障碍者雇用枠は中途採用の一部として経験者を優遇する傾向があります。仕事を夜遅くまで頑張った末に糖尿病性腎症による透析、事故後の半身不随、パーキンソン病など、経験豊富な人が発症したというケースが好まれるようです。
またメンタルヘルスでの休業率は1-3%の企業が多いです。採用しても休みを繰り返すのではという疑念から、取るのをためらう側面があります。
少なくとも定期的な服薬・通院をしている、自分の取り扱い説明ができる、最低6時間は働ける体力があるのが就労に向けた条件となります。デイケアなどで昼間の過ごし方の目安にしてください。
「服薬していないから自分は大丈夫だ」という人は逆に再発しやすいことを理解しているのか、ということで採用見送りになることが多いです。
就労後に発症したら
就労後に発症した場合、会社は病気理由にその場で解雇はできません。就労規則に有給休暇のほか休職制度が記載されているので、確認してください。
会社の多くのパターンは有給休暇 → 病気・私傷病休暇 → 休職の順で休みとなります。復帰時の条件を休職開始時に言われますが、リワークや復職審査などが課される場合は休職満了前に間に合うように復帰プランを立てる必要があります。
予後の通り復帰できないこともあり、休職満了ギリギリまで復帰を焦らない戦略を取ることも多いです。焦って薬を中断し再発、となると職場の受け入れが難しくなります。早く治すより再発させないためにを意識して行動してみましょう。私の場合は期限をきちんと伝え、復帰時の条件を確認してから休職に入っていただいています。
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